イノベーション大国スイスを支えるグローバルな人材活用

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【ここには国を問わずに優秀な能力を集め、スイス人と共存させるしくみがある】

世界でもトップクラスのスイスの有力ビジネススクール、IMD(経営開発国際研究所)は毎年「2017年世界競争力年鑑」を発表する。今年スイスは2年連続で2位だった。今年の1位は香港、日本は昨年と同じ26位だった。この調査ではスイスは常に上位5位以内にランクされる。  国土面積は九州ぐらいと小ぶりで、人口は約800万人と東京都よりも少なく、上天然資源にも乏しいスイス。その一体何が、イノベーションを可能にさせ、国際競争力のあるビジネス環境を作っているのか?政策と、教育、研究の側面から見てみた。

スイスにイノベーション政策はない!?  
「スイスのイノベーション力の秘密」(日本貿易振興機構(ジェトロ)発行、2015年7月)の共著者江藤学氏は「スイスには、イノベーション政策としてまとまった政策は存在しない。」と冒頭で述べる。スイスにはイノベーション政策どころか、産業政策さえ存在しない。つまり、スイスがイノベーション大国であるのは政策誘導の結果ではないことにまず着目したい。 スイスの産業構造の特徴は、世界レベルの大企業と、多数の中小企業とが存在することだ。だからスイスでは産業振興施策が、そのまま中小企業振興策となる。

江藤氏はスイスの中小企業振興策の力点は競争政策にあるという。小さいから保護するのではなく反対に競争に晒すことにより鍛えようというのだ。 「スイスにおける産業育成は、競争環境を整備することにより、本当に優秀な企業のみが生き残り、高付加価値製品を生み出す環境を作り出すことにある。(中略)スイスが世界各国とFTA(筆者註、自由貿易協定)を締結することは、スイス企業の市場を世界規模に広げることとなるが、同時にスイス企業を世界規模での競争環境に連れ出すことに他ならない(下線は筆者)。」 そのような国で政府の役割は人材の確保・育成にある。スイスの製品・サービスの高付加価値化を可能にするのは人だからだ。

国際的なスイスの高等教育研究機関
スイスでは外国人も取り込んだ人材育成が非常にうまく行われている。 スイス国内ではスイスの大学進学率は低い。また、大学に行くことが就職を有利にする条件とは限らない。日本の中学に相当する学校を卒業する年齢はだいたい15歳頃だが(註:スイスの教育は州の管轄なので連邦全体をまたがる共通の義務教育制度はない。そのため終了の年齢にもバラツキがある)、その時点で、子供たちは職業教育の学校に進み職業技能を身につけるか、大学進学を前提とした高校に進み、将来は研究職に進むかを選択しなければならない。たった15歳で将来を決めるのだから、これは親にも本人にもなかなか困難な選択だ。

大学に進んでも卒業するのは大変厳しい。授業について行けなくて、半数の学生が途中でコースを変更するか、または職業教育の学校に移るといわれている。

その代わり、大学を卒業した学生のうち、修士、博士などの研究課程に進む学生の比率は、OECD諸国の中で最高である。 つまり高等教育を受けるなら企業経営者など社会のリーダーに、そうでなければ、中堅の職業人となって社会を支える人材になるよう方向付けるような教育がスイスでは行われているのである。

このような社会だから、職業学校の地位は高い。

一方スイスの大学進学率は低いが、留学生比率は日本に比べると非常に高い。例えばスイスを代表する二つの高等教育研究機関、連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)と、連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)の外国人留学生比率を見ると、学部から博士に上がるにつれ留学生の比率が高まっている。いずれの学校も学部生で20−30%、博士課程だと、70%以上が外国人である。

研究者の視点
スイスでは高等研究機関でも国籍に関係なく学際的な研究が奨励されている。

スイスがイノベーションに強い理由について、連邦立の研究機関の一つ、ポール・シェラー研究所(PSI)で生物学の研究を続ける石川尚(いしかわ たかし)さんにお話しを伺った(写真)。

PSI 石川さん2
石川さん、SLS加速器の上で

PSIには、スイス・ライト・ソース(SLS)という素粒子加速器がある。SLSは、それを使った実験にもとづく研究が、科学界で最も定評のある学術雑誌である「ネイチャー」や「サイエンス」に何度も掲載されるような、世界的にも高度な研究機関である。ここにも世界中の専門家が高度な研究のためにSLSを利用しようと集まってくる。

PSIでは、ドイツ、アメリカなどいろいろな国の出身の研究者が集まっている。それぞれの背負う文化は異なるが、それは研究する上で互いにプラスとなり良いことだと、石川さんは考える。研究分野の異なる人々が共同研究を行って研究の相乗効果を高めることは研究所内で奨励されており、また電子顕微鏡などの設備を研究室の枠を越えて共用できることなど、おのおの専門分野を持ちながらも、その境界は開かれている。それが共同研究や頻繁な意見交換の機会を生み出すなど開かれた研究環境を作っている。

また、基盤技術を担う科学者の処遇が安定していることも、良い研究成果の上がる理由として大切だと石川さんは述べる。前述したSLSを例にとると、この設備は、ビームライン科学者(Beam Line Scientist)という肩書きを持つ人々が運用する。いわば、実験設備の専門家だ。個々のビームライン科学者は博士号を持つほどの専門家だが、研究者ではない。研究者ではないので、PSIでは論文の数を増やすことは求められていない。

PSIのビームライン科学者たちは、論文の数を競い、安定したポストを得るために日々心を砕かなくとも、仕事が保障されている。そのため、安心して仕事に打ち込むことができる。学会で評価される上質な研究は、このような人々が縁の下の力持ちとなって支えているのだ。

スイスには、国内の初等、中等教育で育成したスイス人に産業の中堅層を担わせ、企業経営や研究を担う人材には国籍を問わず世界中から優秀な人材を集めて教育する仕組みがある。国を問わずに優秀な能力を集め、スイス人と共存させるしくみがスイスの国際競争力を支えているのだ。

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言葉は贈り物ー国際会議こぼれ話

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【今私がそれをいわなくても、と思ってませんか?伝えなければ伝わらないんです。】

その時、オバムさんは真っ黒い顔をくしゃくしゃにした。心から嬉しそうな表情、そこには安堵もまた混じっていた。

先週、私はある国連関係の国際会議に出ていた。日本代表団のために議事録を書くのが仕事だった。

オバムさんは、その議長を務めていた。

決して易々とは行かない数々の議題、一筋縄では行かない、会議のベテランたち。

四日間の会期中、オバムさんはいつも冷静で忍耐強く、謙虚で、どの人の意見も尊重しながらも、テキパキと議事を捌いていった。時にはユーモアを交えながら。

この人は素晴らしい!とおもった。

最終日、すべての討議項目を終え、会議が閉会したとき、私はオバムさんに感謝したかった。こういう会議の常で、最後に会場の参加者は議長の労をねぎらって拍手をした。だから、その拍手の中で私も議長に感謝していたんだけれど、それだけで終わらせたくなかった。私は、自分の気持ちを彼に伝えたかった。

会議が終わり、人々が退場しかけた頃、オバムさんは全ての仕事を終えて議長席から降りてきた。彼の廻りには誰もいなかった。

チャンス!

私は迷わず彼に近づいて行った。

「ミスター・オバム、あなたの素晴らしいチェアマンシップをお祝いさせてください。私は、かれこれ20年近くこの組織の会議に出ていますが、あなたはその中で私の出会った最も素晴らしい議長の一人です。」

その時だ、彼が顔をくしゃくしゃにしたのは。

彼のその顔を見た瞬間、「あ、言葉は贈り物なんだ!」と気づいた。

そしてまた、安堵が彼の顔に走ったのを見て思った。

彼に面と向かってその仕事ぶりを褒める人は、なかなかいないんだろうなと。

彼だって、自分が議長として良い仕事をしていたかどうか、会議に出ていた人の評価は気になるだろう。

思い切って、オバムさんにお礼を言いに行って良かった。

気持ちを伝えに行って良かった。

オバムさんは、私からの贈り物を受け取ってくれた。

表現して、良かった!

自分の気持ちは、伝えなければ伝わらないんだ!

ITU会議場
国際会議場, ITU(国際電気通信連合)

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20年かかってわかった国際社会で生きるための力とは? –欧州の経験から

 私もお人好しの日本人だった。

「なぜもっと早く昇進したいと言いに来なかったの?会社は今年は減収なので、全社的に昇進を止めているの。」

上司からそう言われた時、それは、自分がこの期に及んでもどれだけお人好しの日本人なのか、後悔と痛みを伴って分かった瞬間だった。私がヨーロッパで仕事を始めてから20年以上が経っていた。

ここで私の経歴について、少しお話ししよう。

私は生まれも育ちも日本である。日本ではNTTに約10年間勤務した。その後、1989年に経済協力開発機構(OECD)にポストを得、東京からパリに移った。当時OECDの日本人職員の大半は官庁からの出向だったが、私は公募だった。

以来四半世紀以上の間、いろいろな山坂を超えながら、私は欧州大陸で仕事をしてきた。OECDの後、多国籍企業に転職し、国際関係担当マネジャーとして世界各地で開かれる会議に出席した時期もあれば、終身雇用の無い外国のこと、失業して不安な日々を過ごしたこともあった。

振りかえると私は、仕事でも私生活でも、一個人として欧州とヨツに組んできたのだ。日本の組織の一員としてでなく。

現在日本には、国際社会で仕事をしたいと思われる方や、そのような人材を育成する方々が大勢おられる。そのような方々に、私の経験とそこから身につけてきた「グローバル力」ともいうべき力とは何かをお話しし、御参考にしていただければと思う。

写真1 モンブラン橋、ジュネーブ
モンブラン橋、ジュネーブ(撮影 筆者)

冒頭のエピソードに話しを戻そう。

この経験は、ジュネーブに本社を置く、ある多国籍企業に勤務して10年以上経った時のことである。

私は本当にお人好しだった。もともと日本を出たのは自分の意志である。それ以来、国際機関や多国籍企業で100を優に越える国籍の人々と仕事をしてきたというのに、私は芯から日本人だったのだ。「良い仕事をしていれば、きっと誰かが見ていてくれる、そういう私に報いてくれる」、私は無意識のうちにそう思っていたに違いない。それは日本人なら大半の人が思うことでもあるだろう。

頭では分かっていた。国際機関でも、その後に移った多国籍企業でも、定期的な人事異動や昇進、定期昇給などは無かった。昇進も昇給も、自分から仕掛けていかなければならない。「自分はABCの仕事を手がけ、XYZという成果を出した。だから、昇進させて欲しい、昇給すべきだ。」そのように言って、上司と話し合わなければならない。そういう議論をすることは、上司との交渉でもなければ、ましてや攻撃ではない。当たり前の話し合いなのだ。

私にはそれができなかった。昇進していく同僚たちを身近に見ていたのに、自分の昇進を自分から上司に話しに行こうという発想さえ、私にはなかった。良い仕事をしていれば、きっと昇進が向こうからやってくると思っていたのだ。

思い込みに気づく必要

日本の常識は、外国での常識ではない。頭では誰もがそう分かっている。ところが、現実にはいつのまにか、誰もが自分に染みついた価値観の通り行動してしまっている。ここに異文化社会で生きる際の落とし穴がある。

日本人だけではない。人は誰もが何らかの文化的背景、価値観を持って生きている。そのため、文化の違う社会で生きる人間はどうしても、多かれ少なかれ同様の落とし穴を経験するものだ。

ただ、日本人だからこそ充分に注意し、少なくとも自分にはそういう落とし穴があるとあらかじめ覚悟しておくことは役に立つ。日本人のモノの考え方は、世界の中でも相当にユニークだからだ。そう思っておけば、外国で、または外国人と仕事をする中で「何かおかしいな?」ということに出会ったとき、なぜ自分はそう感じるのか、一歩下がって考える余裕が生まれる。それは自分が無意識のうちに思い込んでいる常識に照らして「ヘンだな」と思わせるのか、それとも別の原因があるのか、考えるきっかけになる。その点を意識するとしないとでは、異文化社会に適応する上で、大きな違いが出てくる。

 身につけるべきグローバル力

国際社会とは、外国に行って仕事する場合だけではない。国内で仕事をしていても、上司や部下、同僚に外国人、つまり自分と文化を異にする人々が登場するようになった。日本国内にも、国際社会が育ちつつあるのだ。

そういう時代に生きる皆様には、「グローバル力」を身につけていただきたいと思う。「グローバル力」とは、国際社会で普通に起きること、国際社会で仕事を進める上で基本になっている事柄である。

1.自分の意見を持つ力

他の人に言われたことや暗黙のルールを鵜呑みにせず、自分はどう考えるのか、一度自分の中に引き取って考え直す力。

2.自分の考えを主張する力

これがサラリとできるようになったら、しめたもの。

3.相手に、率直に質問する力

日本の外には、あうんの呼吸で通じるものは何もないと思ってよい。だからこそ、わからないことを質問する権利があなたにはある。質問は他者への攻撃ではなく、「あなたの話に関心を持っている」というサイン、一種の敬意でもあるのだ。

4.違う意見を持つ人と、建設的な対話をする力

異なる意見を持つ相手の、意見と人格とを混同せず、意見は意見として聴くこと。そうして、自分の意見も勘案し、課題のより良い解法を提案する力。

5.人を個人として見る力

国際社会では、自分の想像を絶するような意見の持ち主、文化的背景の持ち主に大勢出会う。そういう人々と建設的に仕事を進めるためには、相手を個人として捉えるよう心がけることが大事だ。相手に国籍、性別、宗教などのレッテルを貼ると、相手の意見を汲み取り損ねて、自分が損をする。

上記に挙げた「グローバル力」は、練習によってかなりの程度身につけることができる。また、日本国内でも実行できるものが多い。

「グローバル力」を身につけるためには、他流試合を繰り返すことだ。例えば、自主的に社外の人々との勉強会に行くなどである。その際、どんな集まりでも、最低3人の知らない人と話をすることをマイルールにすると良い。

小さな成功を積み重ねて行こう。それはきっと、国際ビジネスに生きる。

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新しいことを実行に移すとき、失敗はつきものだ。何かにチャレンジした結果の失敗を喜ぼう。失敗は学びの資源だからだ。そういう楽観性もまた、国際社会を生きる力だ。その力を育てるのは、未体験ゾーンに飛び込む勇気と、それを楽しむ好奇心だ。私はそのようなマインドセットをもつ日本人が増えることを期待している。

 

この原稿は、「PLAZA グローバル経営」、グローバル経営 2016年4月号、PP28-29、に掲載されたものを、編集部のご許可を得てこちらに転載しています。

掲載稿はこちら→ 2016_04_PLAZA