ICTを使う人と作る人をつなぐ「おもてなしの心」 ーー欧州ICT社会読み説き術 (23)  

訪問者としての視点

2020年に、東京でオリンピック、パラリンピックが開催されることになった。 その誘致運動中、チームジャパンは「おもてなしの心」を日本の良さとして選考委員に訴えた。外国に住んでみると、そういう心映えを、多くの人が当たり前のように持つ社会は、多くはないことに気付く。

その日本で年末年始の休暇を過ごしたが、今回も、街に年齢の高い人の多いことが目に付いた。昨年末に総務省統計局の発表したデータによると、日本の人口は昨年1年間に23万人減ったという。主に自然減( 出生と死亡の差がマイナスになること)の結果だ。日本も遂にこの時期が来たのかと、感慨がある。

街に出ると、最新型の多様なディジタル機器が専門店に溢れているところは例年と変わらない。やはり日本はICT大国だと感心する。

「おもてなしの心」、人口の高齢化、街に溢れるディジタル機器――それらは一見無関係に見える。ところが外からの訪問者の目で見ると、実は密接に繋がっていることに、今回気がついた。

 衝撃的な接客体験

私は、年に一度の日本帰省の機会を利用して、日常使うICT製品をまとめて買う。大半は、壊れたMP3プレイヤーの買い換え、ハードディスクのバージョンアップをなど、細々した用事である。

だがそれは、秋葉原の無い国に住む者にとり、貴重な年中行事なのだ。欧州のディジタル生活のメンテである。それというのも、日本ほど、多種多様な、性能の良いICT機器が手に入り、しかも安価な国は欧州にないからだ。

ハードのモノだけではない。ICT機器を売る店の人の親切さと、商品知識の豊かさには、いつも感心させられる。これも、欧州ではまず期待できない。

秋葉原の、ある大手ICT専門店でのことである。かねて用意した商品リストを手に訪れたその店で、私が最初に声をかけたのが彼、Nさんだった。私は、何十種類もあるハードディスクの棚の前で目がくらみ、どれを選べばいいかわからない。そこで、アドバイスをお願いしたのだ。それが、私にとっては衝撃的とも言える、ICT専門店体験 イン ジャパンの始まりだった。

Nさんは、商品知識が豊富なだけでなく、教え方も分かり易かった。その上、欧州の電圧で使えるかを調べるために、新品の商品の箱を開けて確かめてくれた。他にも幾つかの細かいが、私にとっては大切な事を尋ねたが、テキパキ教えてくれる。要するに、彼は教える事に手間暇かけることを厭わないのだ。

それだけではない。私の手に持つ買い物リストに気がついた彼は、同じ階にある商品を探すために、私をその売り場まで案内し、在庫の確認までしてくれた。その階にない商品は、どこにあるかを教えてくれた。おかげで、私は広い店内を右往左往することなく、必要な物を買いそろえることが出来た。

Nさんに限らず、この店の人々は皆、商品知識が豊富で、分かり易くお客に説明してくれる。時には利用者としての自分の経験も交えて、他種類ある商品の中からどれがお客に適切か、アドバイスしてくれる。通り一遍の知識ではないから、参考になる。

別れ際に、Nさんから、これ、良かったら書いてください、と言って葉書を渡された。販売員に対するお客の評価を尋ねるアンケートだった。

それを見て、この店の人々の応対に納得がいった。接客態度だけでなく、商品知識についても、顧客の評価を聞いているのだ。

「気持ちの良い挨拶」「笑顔」を尋ねた後、こういう質問がある-「分かり易い言葉で説明できていましたでしょうか?」

更に質問は続く-「商品知識にご満足頂けましたでしょうか?」

この点こそ、お客にとっては肝要なのだ。ICT機器を買う場合、お客にとっては、店員の気持ちの良い挨拶も大事だが、それ以上に商品知識は大事だ。私なら、この質問を、アンケートの最初に持ってくる。

日本が誇る人材資源

日本人は、「おもてなしの心」を気持ちの底に持っている。それは、相手を大切にする気持ちだ。もともと人の心の土台が親切なところに、この店には、店員がお客目線に注意を払う仕組みがある。これで、お客の便宜が向上しないわけがない。こういう人々が、ICTには必ずしも詳しくない使い手と、ICTに強い作り手とを繋いでいる。

ICT販売店の店員さんの持つ、こういう「おもてなしの心」は、高齢化の進む日本で、日本なりの情報化社会を育てていると思える。高年齢層人口の多い日本では、大多数のICT利用者は、ICT機器をおとなになってから使い始めた人々だ。生まれたときにはパソコンやスマホが無かった世代である。

他方、高年齢者といえども、携帯電話のように、最低限のICT機器は生活必需品となった。その人々に、適切な商品を選ぶ手助けをし、故障や機器の交換の時には、電話番号メモリーを移動するなど、小さいが、使い手にとって重要なことに手を貸す人々は是非とも必要だ。

人口の高齢化は、スマホのように、個人の使う情報機器の高度化と並んで、世界的な傾向である。そういう社会にあって、ICTを使う人と作る人とを、その入り口で繋ぐ場所にいる販売店の人々の役割は大きい。

「おもてなしの心」を持つ、ICT商品知識の豊かな販売員は、21世紀情報化社会で、日本が世界に誇れる人材資源である。今年はその資源をもとに、 ICT商品販売担当者の研修コースを作成し、欧州に紹介できないだろうか?そういう販売思想は欧州にないので、画期的と受け取られると思う。

掲載稿はこちら→ 欧州ICT社会 読み解き術 第二十三回、NTTユニオン機関誌「あけぼの」2014年2月号に掲載、2014_02あけぼの_ICT_第二十三回 おもてなしの心

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA