「ネット投票」浸透への道のり ー 欧州ICT社会読み説き術 (18)

今年から日本でも、ネットを使った選挙運動が始まった。これは、国外で投票する私には凄い朗報だ。政党や候補者の意見や政見をネットで検索できる。そのうえ驚くほど多様なサイトがある。複数のサイトから得た情報をもとに、誰に投票するかを多面的に考えられる。これはありがたい。

ところで、こちらジュネーブでは、インターネットを使った投票が行なわれている。今回は、ジュネーブで行なわれているインターネット投票 (e-Voting)について、その誕生以来、今日まで12年間、普及と改善に取り組んできたミシェル・シュバリエさんに取材した。

ネット投票のデモを体験

ジュネーブ州のウェブサイトに、e-Votingのデモンストレーションシステムが載っている 。このデモシステムには、スイスの四つの国語の他に、英語版まである。(さすがはスイス!)

デモシステムによると、ネット投票は概略このように進む:

(1) e-Voting のサイトに行き、まず投票用紙番号、投票者ID(氏名、生年月日)を入力する。

(2) すると画面が変わって、投票事項が表示される。このデモシステムは、レファレンダム(国民投票、住民投票)の例なので、投票者はある事項について、イエス、ノーを選ぶ。(これが議員の選挙なら、マウスで名前を書くそうだ。)

実際にやってみると、驚くほど簡単だった。これなら初めてネットを使って投票する人でも、またフランス語が多少苦手な人でも、とまどったり、間違ったりしないだろう。ジュネーブの住民にはフランス語が母語ではない人が多いので、この点は重要だ。

2001年にプロジェクト発足

インターネット投票は、2001年に、ジュネーブ州のプロジェクトとして発足した。その背景には、郵便投票制度の大成功がある。郵便投票は1995年に導入され、投票率を大きく押し上げた。今では 投票の95%は郵便で行われている。

郵便投票は、投票手段が便利なら、投票率は上がることを人々に教えた。

「では、次は自宅に投票所を持ってこよう!」

折しも、時代背景が動いた。コンピュータの西暦2000年問題が起きたのである。(註:2000年問題(にせんねんもんだい)は、グレゴリオ暦2000年になるとコンピュータが誤作動する可能性があるとされた年問題。Y2K問題(ワイツーケイもんだい:”Y”は年(year)、”K”はキロ(kilo))、ミレニアム・バグ(millennium bug)とも呼ばれた。出典:ウィキペディア http://ja.wikipedia.org/wiki/2000年問題 )

結果としては、大きな混乱は起きなかった。しかし、2000年問題は、世界中の人々に、コンピュータに頼る社会の危うさに気付かせると同時に、自分たちはディジタル時代に入っているという認識に目覚めさせた。

最初は小さくスタート

このような時代の後押しを得て、e-Votingシステムの構築は進んだ。しかしその普及は順風満帆ではなかった。政治的には保守、リベラル政党それぞれの思惑が絡んだ。どちらも、ネット投票は相手陣営の投票者に有利になると考えたのだ。また、一部の有権者の間に、選挙は神聖という意識があり、それがネット利用への抵抗になった。

最初のe-Votingは、2009年、一つの選挙区で、試験として実施された。ネット投票に対する反対の声を和らげるために、小さく始めたのだ。

e-Votingの普及が進むにつれ、反対する声は小さくなった。それでもe-Voting 普及の歩みは今でも慎重である。現在、e-Votingは、ジュネーブ州に45ある選挙区のうち、30の区で可能となっている。

インターネットで投票できる選挙区の有権者に配布される葉書

有権者に様々な配慮が

ジュネーブの有権者を対象にした最近の調査によると、70%の市民がネット投票を支持している。とはいえ、実際にネットで投票する人は、投票者全体のほぼ20%。シュバリエ氏は、これをもっと増やしたいと考え、随時プロモーション活動を行なっている。

一方、スイス国外に在住する(ジュネーブ州の)有権者に対しては、ネット投票は2009年から、全員に可能になっている。今では、在外有権者の50%がネットで投票しており、以前に比べて投票率は20%増加したそうだ。

ジュネーブ州の e-Votingには、ネット利用に不便のある人々にも配慮が払われている。現在のシステムは、アクセシビリティー、ユーザビリティーに優れており、目や四肢の不自由な人にも、介助無しで投票できるそうだ。また、ネットを使い慣れない高齢者のためには、高齢者のセンターなどで講習会を開いている。

政治的利害ふまえ慎重に運用

スイス全体を見ると、現在25州あるうち、15の州がインターネット投票を採用している。また、現在稼働しているシステムは3種類ある。スイス全体の統一は無い。選挙制度は州が管轄するからだ 。

スイスのネット投票には、2005年以来、連邦政府による上限規制ができた。ネット投票ができるのは、有権者の30%までである。ただし、スイス国外在住の有権者にはその規制は当てはまらない。技術的には100%が可能でも、実施にあたってこのような規制ができたところに、多様な政治的利害などに配慮しながら、ネット投票が、とても慎重に進められていることを窺わせる。

インターネットを使った投票は、多くの人に便利なことが実証された。その反面、選挙結果は政治の行方を左右するだけに、実施には、充分な議論とコンセンサス作りが必要だ。小さく始めて、徐々に大きく育てるというジュネーブの知恵は、日本にも参考になるだろう。

日本でもネット投票の導入を

日本国外に住む筆者は、投票もネットでできたら素晴らしいと思う。国政選挙の際、多くの在外公館に投票所が設けられるが、遠くてそこまで行けない人は多い。郵送投票の制度もあるが、手続きが煩雑な上、投票用紙を取り寄せるなど、日数が数ヶ月かかる。在外邦人の投票率は20%強と非常に低い、との推定があるが、それは極端に投票しにくいことが大きな原因ではないだろうか。

日本国外に住む有権者は、現在約88万人。その人々のために、スイスのようなネット投票を日本でも可能にして欲しいと、今回の参院選挙で在外公館まで投票に出かけた筆者は、つくづく思ったのだった。

掲載: NTTユニオン機関誌「あけぼの」2013年 7 & 8 月号

掲載稿はこちら→ 2013_あけぼの_ICT_第十八回

広告

投稿者: Yoshiko KURISAKI (栗崎由子)

I am Yoshiko Kurisaki, Japanese, executive consultant specializing in cross-cultural management between Europe and Japan. Being based in Geneva, I travel between Europe and Japan. Culture may be a stop factor in business. That said, if you go beyond that, culture is a vaIuable source of inspirations and innovation. I help European businesses to turn cultural barriers to innovation.   栗崎由子(くりさき よしこ)、ダイバーシティ マネジメント コンサルタント。二十余年間欧州の国際ビジネスのまっただ中で仕事をしてきました。その経験を生かし、日欧企業むけにビジネスにひそむ異文化間コミュニケーションギャップを解消し、国籍、文化、性別など人々の違いを資源に変えることのできるマインドセットを育てるための研修やコンサルティングを行なっています。文化の違いは”面倒なこと”ではなく新しい価値を生み出す源泉です。日本人の良さを国際ビジネスに生かしながら、違いを資源に変えて価値を創造しましょう。ジュネーブ在住で、日本とスイスを往復しています。

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中