ジュネーブと国際会議と(6)人見知りだった私が、国際会議で実行していること

私は、人見知りの子供でした。外に出て友達と遊ぶよりも、家で好きな絵を描いたり、本を読んだりしている方が好きな子どもでした。

幼稚園の頃は、「月曜病」だったそうです。月曜日の朝になると腹痛を訴えたと、母から聞きました。家で気ままに過ごした週末の後、幼稚園に行くのがいやだったのでしょう。

母も、欠席の連絡を受けた幼稚園の先生も、私の幼い病気に気付いていました。けれども、先生は無理強いせず、「ああ、よしこちゃん、またね。元気になったらいらっしゃい。」と言ってくださったそうです。

こういう人見知りの私ですが、おとなになると、そういう理解ある先生ばかりに囲まれて過ごすわけにはいきません。

ITUの会議に出席するようになって間もなく、気づいたことがあります。国際会議で必要なのは、発言の善し悪し(内容の正しさ、建設的な意見か、など)もさることながら、人としての信頼が同じくらい重要なのです。そのためには、日頃から、会議場の中と外で多様な人々と知り合い、信頼関係を築いておかなければなりません。

反面、会議に初めて参加した人の発言力は、どうしてもその実力以下になってしまわざるを得ません。これは、仕方ありませんね。それもまた、国際会議という意志決定過程のルールのうちなのです。だからこそ、ある人を何年間にも亘り同じ会議に出席させることは、それだけで大きな発言力を得るために大変役立ちます。

人見知りの人間が、国際会議で他の人と知り会って行くにはどうすればよいか?これは私にとって大きな課題でした。

ジュネーブ旧市街。石の壁に残るホタテ貝の印が、巡礼宿だった歴史を語る。
ジュネーブ旧市街。石の壁に残るホタテ貝の印が、巡礼宿だった歴史を語る。

いろいろな経験を繰り返した今、私は、どんな会議でも、セミナーなどでも、毎回自分に二つの宿題を出しています。

一つ目は、必ず、何か一言、発言すること。意見でも質問でもいいからとにかく、一回は声を出す。

二つ目は、毎回、知らない人最低3人と話しをする。

一つ目の宿題は、NTT時代の上司だった、Kさんを見習ったものです。この点については、6月号のこのコラムでお話ししましたね。

二つ目は、自分で作り出した宿題です。

どんな会合でも、毎回知らない人3人と話すこと。または、既に知っている人と、新しい話題で話すこと。

なぜそんなことをするかというと、人に話しかけることを楽しくしたいからです。逆に言うと、宿題を出しておかないと、人と知り合うことに一歩を踏み出せない人見知りの私が、まだ心のどこかにいるのです。

そういう自分をどうにかしようと思い、一人でこのようなゲームをすることを思いつきました。ゲームと思えば、軽い気持ちで実行に踏み切れます。それがこの二つの宿題なのです。

ゲームですから、一つ出来る毎に、自分にご褒美も出しています。一日の会議を終えた後、夕食前のビールなどは、励みになります。こうやって、自分に人参を与えるわけですね。

人と知り合うことに億劫さを感じる人は、どうも私だけではないようです。大人になると、人付き合いの面でも自分の領域がしっかりできてきます。その反面、 多くの人は、新しい人と知り合うことを面倒に思うようになるのではなでしょうか。

人に話しかけることを億劫に思わないコツは、相手への関心です。目の前にいる人に対し、どんなひとだろう?と興味を持つことです。人は誰でも、情報の宝庫です。相手の知っていることに興味を持ち、聴くことを楽しんで下さい。そうして、その人と知り合ったことを喜び、たとえ5分でも、一緒にいる時間を楽しみましょう。まして国際会議の場では、広く世界から、思いもかけなかった話題が集まって来るのですから。

最後に、私に一つ目のヒントを下さり、今も尊敬する先輩のKさんの詩を、ここにご紹介したいと思います。これは、「歳を取ったら」というシリーズの一作です。けれども、ここに込められたメッセージは、年齢に関係なく、誰にでも受け止めて頂けることと思います。

歳を取ったら

孤高を目指してはいけない

ネットワーカーになろう

様々な人との出会いが

人生を豊かにしてくれる

歳を取ったら

もらっているばかりではいけない

情報を発信しよう

ささやかな贈り物を

喜んでくれる人がきっといる

(上記の詩の引用に当たっては、作者、K様のご承諾を頂きました。)

この連載は、今回が最終回となります。皆さま、六ヶ月間ご愛読をありがとうございました。

国際会議でのコミュニケーションについて、講演や研修を致します。まず、メールでご相談下さい。

Yoshiko.Kurisaki@gmail.com

掲載: ITU ジャーナル Vol. 43, No. 9, 2013年9月号

「ネット投票」浸透への道のり ー 欧州ICT社会読み説き術 (18)

今年から日本でも、ネットを使った選挙運動が始まった。これは、国外で投票する私には凄い朗報だ。政党や候補者の意見や政見をネットで検索できる。そのうえ驚くほど多様なサイトがある。複数のサイトから得た情報をもとに、誰に投票するかを多面的に考えられる。これはありがたい。

ところで、こちらジュネーブでは、インターネットを使った投票が行なわれている。今回は、ジュネーブで行なわれているインターネット投票 (e-Voting)について、その誕生以来、今日まで12年間、普及と改善に取り組んできたミシェル・シュバリエさんに取材した。

ネット投票のデモを体験

ジュネーブ州のウェブサイトに、e-Votingのデモンストレーションシステムが載っている 。このデモシステムには、スイスの四つの国語の他に、英語版まである。(さすがはスイス!)

デモシステムによると、ネット投票は概略このように進む:

(1) e-Voting のサイトに行き、まず投票用紙番号、投票者ID(氏名、生年月日)を入力する。

(2) すると画面が変わって、投票事項が表示される。このデモシステムは、レファレンダム(国民投票、住民投票)の例なので、投票者はある事項について、イエス、ノーを選ぶ。(これが議員の選挙なら、マウスで名前を書くそうだ。)

実際にやってみると、驚くほど簡単だった。これなら初めてネットを使って投票する人でも、またフランス語が多少苦手な人でも、とまどったり、間違ったりしないだろう。ジュネーブの住民にはフランス語が母語ではない人が多いので、この点は重要だ。

2001年にプロジェクト発足

インターネット投票は、2001年に、ジュネーブ州のプロジェクトとして発足した。その背景には、郵便投票制度の大成功がある。郵便投票は1995年に導入され、投票率を大きく押し上げた。今では 投票の95%は郵便で行われている。

郵便投票は、投票手段が便利なら、投票率は上がることを人々に教えた。

「では、次は自宅に投票所を持ってこよう!」

折しも、時代背景が動いた。コンピュータの西暦2000年問題が起きたのである。(註:2000年問題(にせんねんもんだい)は、グレゴリオ暦2000年になるとコンピュータが誤作動する可能性があるとされた年問題。Y2K問題(ワイツーケイもんだい:”Y”は年(year)、”K”はキロ(kilo))、ミレニアム・バグ(millennium bug)とも呼ばれた。出典:ウィキペディア http://ja.wikipedia.org/wiki/2000年問題 )

結果としては、大きな混乱は起きなかった。しかし、2000年問題は、世界中の人々に、コンピュータに頼る社会の危うさに気付かせると同時に、自分たちはディジタル時代に入っているという認識に目覚めさせた。

最初は小さくスタート

このような時代の後押しを得て、e-Votingシステムの構築は進んだ。しかしその普及は順風満帆ではなかった。政治的には保守、リベラル政党それぞれの思惑が絡んだ。どちらも、ネット投票は相手陣営の投票者に有利になると考えたのだ。また、一部の有権者の間に、選挙は神聖という意識があり、それがネット利用への抵抗になった。

最初のe-Votingは、2009年、一つの選挙区で、試験として実施された。ネット投票に対する反対の声を和らげるために、小さく始めたのだ。

e-Votingの普及が進むにつれ、反対する声は小さくなった。それでもe-Voting 普及の歩みは今でも慎重である。現在、e-Votingは、ジュネーブ州に45ある選挙区のうち、30の区で可能となっている。

インターネットで投票できる選挙区の有権者に配布される葉書

有権者に様々な配慮が

ジュネーブの有権者を対象にした最近の調査によると、70%の市民がネット投票を支持している。とはいえ、実際にネットで投票する人は、投票者全体のほぼ20%。シュバリエ氏は、これをもっと増やしたいと考え、随時プロモーション活動を行なっている。

一方、スイス国外に在住する(ジュネーブ州の)有権者に対しては、ネット投票は2009年から、全員に可能になっている。今では、在外有権者の50%がネットで投票しており、以前に比べて投票率は20%増加したそうだ。

ジュネーブ州の e-Votingには、ネット利用に不便のある人々にも配慮が払われている。現在のシステムは、アクセシビリティー、ユーザビリティーに優れており、目や四肢の不自由な人にも、介助無しで投票できるそうだ。また、ネットを使い慣れない高齢者のためには、高齢者のセンターなどで講習会を開いている。

政治的利害ふまえ慎重に運用

スイス全体を見ると、現在25州あるうち、15の州がインターネット投票を採用している。また、現在稼働しているシステムは3種類ある。スイス全体の統一は無い。選挙制度は州が管轄するからだ 。

スイスのネット投票には、2005年以来、連邦政府による上限規制ができた。ネット投票ができるのは、有権者の30%までである。ただし、スイス国外在住の有権者にはその規制は当てはまらない。技術的には100%が可能でも、実施にあたってこのような規制ができたところに、多様な政治的利害などに配慮しながら、ネット投票が、とても慎重に進められていることを窺わせる。

インターネットを使った投票は、多くの人に便利なことが実証された。その反面、選挙結果は政治の行方を左右するだけに、実施には、充分な議論とコンセンサス作りが必要だ。小さく始めて、徐々に大きく育てるというジュネーブの知恵は、日本にも参考になるだろう。

日本でもネット投票の導入を

日本国外に住む筆者は、投票もネットでできたら素晴らしいと思う。国政選挙の際、多くの在外公館に投票所が設けられるが、遠くてそこまで行けない人は多い。郵送投票の制度もあるが、手続きが煩雑な上、投票用紙を取り寄せるなど、日数が数ヶ月かかる。在外邦人の投票率は20%強と非常に低い、との推定があるが、それは極端に投票しにくいことが大きな原因ではないだろうか。

日本国外に住む有権者は、現在約88万人。その人々のために、スイスのようなネット投票を日本でも可能にして欲しいと、今回の参院選挙で在外公館まで投票に出かけた筆者は、つくづく思ったのだった。

掲載: NTTユニオン機関誌「あけぼの」2013年 7 & 8 月号

掲載稿はこちら→ 2013_あけぼの_ICT_第十八回