コミュニティー・マネジャー?ー 欧州ICT社会読み説き術 (16)

ソーシャル ・ネットワークの時代

日本の選挙運動もソーシャル ・ネットワーク時代に入ったようだ。今年四月に『公職選挙法』が改正され、七月の参院選から、選挙運動にインターネットが使えるようになると聞く。私のように外国に住む有権者にとって、これは朗報だ。次回の選挙からは、政党や、立候補者のホームページを見て、誰に投票するか決めることができるからだ。今までそういう手段が全くなかったので、在外邦人選挙では、まるで眼を閉じて投票する気分だった。法改正で、ツイッターやフェイスブックといったソーシャル・メディアを使って演説の案内や投票の呼びかけもできるようになる。

これを契機に、ソーシャル・メディアを通じたコミュニティ・マネジメントの重要性が、日本でも飛躍的に高まるかもしれない。ソーシャル・メディアは双方向であるという点で、政党が今まで選挙運動で多用していた一方通行のメディアとは大きく異なる。そこに、コミュニティ・マネジメントの重要性が生まれる。

欧州でも、コミュニティ・マネジメントを行なう「コミュニティー・マネジャー」は、成長著しい職種である。この仕事は、初めはIT企業やウェブ関連企業で導入されたが、今では、一般的な企業も導入。例えば、スイスでは、銀行や時計メーカーの中に、このポストを設けている企業があるし、大手のNGO(非政府機関)、例えば国際オリンピック委員会(IOC)も、そのような職種を置いている。

企業・団体の窓口的存在

コミュニティー・マネジャーの職務は大まかに言うと、企業ならばその商品、サービスやブランド、また、社会的目的を持って設立された団体なら、その目的(例えば自然環境の保護。政党もその一つ)に関心を持つ人の集まる集団(コミュニティー)とのコミュニケーションの窓口となり、そのコミュニティーを発展させ、さらにコミュニティーからのフィードバックを企業や団体の発展に必要な情報(リソース)として、内部に伝達することにある。

コミュニティー・マネジャーの活動は大きく四つに分けられる。この場合、企業なら潜在・顕在の顧客、団体なら、その目的を支持する人々に、①情報交流の場を作ること(顧客・支持者の参加を呼びかける)、例:ツイッターのフォロー、フェースブックのグループページ②ファンを増やすこと(ロイヤルティ育成)③その人々が企業・団体に何を期待しているか、何を必要としているかを対話の中から汲み上げ(顧客・支持者の声の収集)、企業のマーケティング、商品開発部門や、団体のリーダーたちにフィードバックし、将来の商品や、サービス、活動の発展、改善、に結び付けること、そして、④顧客や支持者に、その意見や要望が役立てられ、改善されたことを責任を持って伝えること、こうして顧客・支持者からの信頼を育て、強めること、である。

このような任務を遂行するためには、コミュニケーション専門家としての充分な経験と訓練が必要だ。

コミュニティー・マネジャーには、人(顧客や支持者)の声の奥にある気持ちを汲み取る力、企業や団体の商品・目的を理解し、愛情を持ち、自分の所属する団体の代表者であると同時に、顧客を理解しその味方でもあること、その上、自社、団体の発信する情報を受け手が快く理解できるように伝える(話す、書くなど)力が必要である。この仕事にとって、ソーシャル・メディアは、コミュニケーション手段の一つであって、それ自体は目的ではないことにも注意したい。

SNSが双方向性を加速

コミュニティー・マネジャーの担う仕事は、企業なら、広報部やお客様サービス担当部門が従来から担当して来た。

ところが、ソーシャル・メディアの時代になって、コミュニティー・マネジメントの性格は一変した。 フェースブックや、ツイッターなどに代表されるSNSの爆発的な発展により、人々の情報発信力が飛躍的に大きくなったからだ。企業・団体と個人との情報の流れの方向が、 企業・団体 からの一方通行から、双方向になったのだ。

ソーシャル・メディアでは、一人が何かを発言する(情報発信)と、その声は、その人と繋がる大勢の人々(数人から数万人規模)に一度に伝わる。

伝わった側の人々は、その同じ情報を、さらに自分の友人・知人の輪に拡げることができる。その情報が、あなたの扱う商品についてだと想像してみてほしい。一つの発言の波及力は測り知れないことが、容易に想像できるだろう。しかも、そういう情報伝達は、企業や団体があずかり知らないところで起きているかも知れない。これも従来のメディアにはなかったことである。

それなら、私たちは、SNSを敬遠せず、むしろ積極的に使って、顧客やファンに知らせたい情報を広めればいい!SNSを、ファンを増やし、繋がりを深めるために使えば良い―そう考えた企業、団体では、コミュニティー・マネジメントは急速に重要さを増し、コミュニティー・マネジャーという名を戴く職種が育ったのだ。

ただ、その育ち方を見ると、社会の仕組みや文化の違いがここでも影響を与えている。

国際化に多言語への対応は必要

ご存知のようにスイスは主に独仏伊語が併存する多言語国家だ。そういう社会では、ソーシャル・メディアという、技術的には同じプラットフォームを使っても、言語圏によりコミュニティーは分かれていると識者は指摘する。言語が違えば、考え方もコミュニケーションのありかたも違ってくる。そのため、スイス全体で活動する企業や団体には、それぞれの言語に対応したコミュニティー・マネジメントが必要になっているというのだ。

その点、日本は原則的に、言語が日本語だけなので、全国的な規模のコミュニティーを作ることができる。

だがここで、日本でも、スイスほどの規模ではないにせよ、言語の多様化が進行している現状に注目したい。例えば、「日本語人」でない人は数多く居住しているし、職場への進出も進んでいる。異なる言語を持つ人々と共に生きる社会で、コミュニティーを形成し、コミュニケーションを図る必要性は増える一方だ。日本の場合は、スイスのような明確な言語圏を国内に形成することはないと思うが、多様な言語を持つ社会の必要性に応えるコミュニティー・マネジメントを、今から意識して育てる必要があるのではないだろうか。それもまた、日本の国際化のプロセスと捉えたい。

掲載: NTTユニオン機関誌「あけぼの」2013年5月号

掲載稿はこちら→ 2013_あけぼの_ICT_第十六回

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投稿者: Yoshiko KURISAKI (栗崎由子)

I am Yoshiko Kurisaki, Japanese, executive consultant specializing in cross-cultural management between Europe and Japan. Being based in Geneva, I travel between Europe and Japan. Culture may be a stop factor in business. That said, if you go beyond that, culture is a vaIuable source of inspirations and innovation. I help European businesses to turn cultural barriers to innovation.   栗崎由子(くりさき よしこ)、ダイバーシティ マネジメント コンサルタント。二十余年間欧州の国際ビジネスのまっただ中で仕事をしてきました。その経験を生かし、日欧企業むけにビジネスにひそむ異文化間コミュニケーションギャップを解消し、国籍、文化、性別など人々の違いを資源に変えることのできるマインドセットを育てるための研修やコンサルティングを行なっています。文化の違いは”面倒なこと”ではなく新しい価値を生み出す源泉です。日本人の良さを国際ビジネスに生かしながら、違いを資源に変えて価値を創造しましょう。ジュネーブ在住で、日本とスイスを往復しています。

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