機能するCSRとは? テレフォニカ — 欧州ICT社会読み説き術 (3)

最近、ファイナンシャルタイムス紙は、テレフォニカ(スペイン)が、ヨーロッパの新進ICTビジネスに資金を提供することになったと報じた。大きな記事ではない。それがパッと私の目に止まったのは、テレフォニカは以前から、ちょっと気になる会社だったからである。

テレフォニカ( Telefónica)は、日本のNTTグループに当たる、スペイン最大の総合情報通信企業である。1924年にアメリカ資本の民営会社として設立され、一時の国有化を経て、1999年に再び完全な私企業になった。

テレフォニカは世界的な大企業であると共に、国際企業でもある。

同社は、2000年代初めからは、世界各地の通信市場自由化を追い風に、欧州5カ国、中南米14カ国の電話会社に投資するなど、世界的に広く事業展開を行なってきた。その結果、今年10月現在でスペイン国外からの収入が会社全体の約70%に上るが、この数値は 世界的に携帯電話事業を展開するボーダフォン(イギリス)に次いで、世界二位である。

グループ企業全体の加入者数は約二億9000万で、この数はチャイナユニコムに次ぎ世界五位、社員は27万人、2010年には607億ユーロ(6.4兆円)の経常収入があったがこれは、情報津新企業の中で世界五位に相当する。参考までに、NTTは二位、NTTドコモは九位)。

私がテレフォニカに注目するようになったのは、この会社がCSR(企業の社会責任)を経営の根本思想に据え、CSRの考え方をあらゆる企業活動に組み込む仕組みを持ち、それが現実に機能していると知って以来である。今やCSRレポートを発行しない大手のICT企業は無い。しかし、CSRを企業倫理コードに裏打ちされた、プロセス・リエンジニアリング(業務遂行手順の見直しと刷新)の規範と位置づけている点で、テレフォニカは注目に値する。

同社は10年近く前から、CSRを戦略にした経営を進めてきた。その間、一貫してCSRという考え方の社内への浸透を推し進めてきたリーダーが変わっていないのは強みである。

同社のCSRは、初期はリスクマネジメントとして始まった。正しい行ないをする会社は、安定して成長を続ける、従って株主の評価も高い、ということは、ダウジョーンズ社のサステイナビリティ指標(DJSI)でテレフォニカが常にトップを占めていることからも証明されている。

テレフォニカのCSRは社外PRのためではない。新ビジネス、新サービス開発に深く結びついている。例えば同社は、社外ステークホルダーとテレフォニカの社員とが同じテーブルに就き、互いの知恵と知識を交換しながら、ステークホルダーの抱える問題の解決法をICTを利用して解決する機会を、随所で作っている。そのテーマは、CO2削減のような環境問題から、自治体の教育、医療、行政サービスの改善など、広範囲に及ぶ。

テレフォニカもディジタル時代の進行と共に、通信回線やエアタイム提供事業だけでは生き残れないとの危機感をつのらせていた。 技術力を持った社員が顧客に直接対面し、その課題解決に適したシステムを一緒に考え、提案する過程には、それを通じて社員の意識が変化し、ひいては自社の企業文化が、回線接続業から総合情報通信サービス業へと変わることが期待されている。

今年の9月、 テレフォニカは世界規模の社内機構再編を行なった。テレフォニカ ディジタルという組織を誕生させ、ディジタル・ビジネスの推進へと大きく舵を切ったのである。それはテレフォニカのビジネスモデル変革への歩みでもある。こうして、同社は、テレフォニカ ディジタルをエンジンとして、データで稼ぐ仕組みを作ることに本格的に乗り出した。 早速11月初めに、ヨーロッパのICTスタートアップ企業に投資し、イノベーションを推進する企画を発表したのも、その表れである。

新技術を導入するための投資も続いた。10月には、チャイナ ユニコムと共同出資で、M2Mや、モノをつなぐインターネット (Internet of things) の技術開発を進める契約を交わしたほか、11月には、ホームエンターテインメントビジネスの開拓を目指し、 WiFi用アンテナメーカー, クアンテナ(本社、米国カリフォルニア州)、への投資を発表した。

今や、世界中で、かつて電話会社として成長した会社はすべて、ICTを使ったサービスを提供する会社に変わろうとしている。危機をチャンスに変えねばならない時期に、テレフォニカはCSRを経営の基本に据えつつ、どのように変化に対応し、 生まれ変わっていくのだろうか。興味をもって見まもりたい。

掲載: NTTユニオン機関誌「あけぼの」2011年12月号、2012年1月 合併号

掲載原稿はこちらをご覧ください。

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