変化を模索するITU — テレコムワールド ‘11に参加して — 欧州ICT社会読み解き術 (2)

10月にジュネーブで開かれた、ITU(国際電気通信連合)のテレコムワールド ‘11に参加した(写真 NTTグループと、日本コーナー)。これは、4年に一回、ITUが開く世界的イベントで、今年はその40周年に当たる。ここでは常に、その時々のテレコムの政策課題が議論され、近未来の技術が展示されてきた。

通信市場自由化の進行、インターネット、携帯電話が固定電話に取って代わる時代となるに伴い、ITUは時代に応じた役割を模索してきた。もともと通信キャリアと政策担当者の集まりであるITUは、通信技術標準化と料金などの国際通信制度が伝統的なコアコンピタンス(核となる強み)だった。しかし、通信の規制から公平競争のルール作りへ変化した政策担当者の役割り、電気通信政策の枠組みの外で誕生し、発展を遂げてきたインターネットを現実の通信市場に抱え、ITUの役割も変わらざるを得なかったのである。

展示から対話へ

現代は、SNS(ソシアルネットワーキングシステム)の隆盛に見られるように、個人がネットを介して知恵を持ち寄り、行動を、時にはイノベーションを生み出す時代である。携帯電話がパームトップコンピュータに成長するなど、ICTは個人の情報発信を飛躍的に容易にした。今回のテレコムには、そういう時代におけるITUなりの取り組み方が、いろいろな仕掛けとなって現れていた。

例えば、会場のフロアプラン。対話、ネットワーキングをしやすいよう、簡単な椅子とテーブルを置いたコーナーが展示会場の中央に幾つか設置してある。また、今までは、展示場と、フォーラム、ワークショップ会場が劃然と別れていた。フロアも違えば入場料も違った。今回は、それらが繋がっている。今回のキーワードの一つ、「コネクティビティー」を意識したかどうか、人とのネットワーキングや、展示される技術とフォーラムで生まれる知恵やビジョンを繋ぐことのできる環境が、そこにある。

ワークショップに行くと、参加者一人一人と名刺交換をするITUのスタッフがいる。今までこんな経験をしたことはなかった。ここに、イベントの後も、問題意識を共有する人々と繋がろうとする意志を感じる。

ワークショップの進行中には、スタッフがノートをとっている。そのノートは後日様々なプロジェクトに使うという。参加者をリソース、知恵の提供者として活用するその姿勢は、今流行のコレクティブシンキング(共同で考える)そのものだ(写真 会場に掲げられるキーワード、“外せない会話”)。

必要に迫られた人々に役立つICTとは?

WHO(世界保健機構)のブースは、eHealthをテーマにしていた(写真。eHealthチームのリーダー、JDさんと)。主に発展途上国で活動する多様なNGOを招いて展示とトークショウを行っていたが、マラリアの薬の管理(タンザニア)、エイズ患者の心のケア(南アフリカ)、など事実そのものに説得力があった。

WHO mHealth Pavillion, ITU 2011

こういうプロジェクトを見るにつけ、ICTが、医療、保健サービスの行き届かなかった僻地の人々や、その仕事に従事する人々に大きな便宜をもたらしていることに感心する。そして、成功しているプロジェクトには共通点があることに気付く。

一つは、あるプロジェクトに関わる人々や、組織がすべて参加し、共に働く仕組みがうまく機能していることである。ジュネーブ大学がWHOなどと共同で進める、アフリカ僻地で働く医療従事者の遠隔教育システムのプレゼンテーションの中で聞いた、こんな言葉が耳に残ったー“ICTシステムを現場で生かそうと工夫するうちに、それに関わる人々を包含するネットワークを作っていた。”

もう一点は、安価で、容易で、そのうえ、手元にあるICTを使うことである。たとえば、僻地にある現場からのデータインプットには今でもSMSが多用されている。発展途上国の場合、スマートフォンや、ブロードバンドは、普及率が10%にも満たないのが現実である。また、そういったサービスの受益者には、高齢者などICTに慣れていない人々もいる。そういう人々こそが、ICTの恩恵の必要な人々であり、そこでICTが役立つ為には、そういった受益者に手の届くシステムでなければならないのである。

変化を見まもりたい

今回のテレコムワールドを見て、ITUは、通信という抽象的な存在から、通信の中身に関心の対象を拡げつつあるように思えた。通信システムを使う側の組織や人々に近づき、eHealth,気候変動など、通信主導ではない様々な活動に参加している。それは奇しくも、「モバイルを核とした総合サービス企業」を目指すと宣言した、NTTドコモ社の方向とも軌を一にしているのではないだろうか。

その動きの中で、ITUは、発展途上国でのICTシステムに見られるように、先進国の我々が過去に置いてきたような技術を求められる場面にも遭遇しよう。今後、通信という伝統的な専門領域の縁辺を拡げる過程で、ITUはどのような付加価値を創っていくのか?今後のITUが、WHOなど、多用な国際機関と協働を進める中でどう変化するか、何を生み出して行くのか、経過を見まもりたい。

テレコム閉会にあったてのキャッチフレーズは、ITUの変化を鼓舞するかのようで象徴的だったーー“Manifesto for Change

掲載: NTTユニオン機関誌「あけぼの」2011年11月号

掲載原稿はこちらをご覧ください。

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