mHealthと「夢の電話」と — MWC 2011 (3)

健康を軸に得意分野を磨く富士通

モバイルヘルス(mHealth)は、 今や市場の一分野に成長しました。エリクソンのような大手から、幾多の小さなシステムハウスまで、会場のあちこちでモバイルヘルスの展示が見られました。(写真 下)

モバイルヘルス展示コーナーに並ぶ、システムハウス

日本企業の中では富士通がヘルス・セントリック・モバイルホンというテーマを掲げ、 携帯電話を、センサーで人から計測したデータの入り口として用い、血圧計などの医療、健康管理関連機器と接続して利用するシステムを展示していました。富士通の“らくらくホン”開発で磨いた技術や経験を基礎に、Continua Health Allianceという、モバイルヘルス関係の国際標準化活動にも参加しているそうです。高齢化社会に必要とされる技術を、国際標準に適合するよう開発することは、素晴らしい歩みだと思いました。それは日本だけでなく、世界の多くの利用者に技術の恩恵をもたらすための土台作りだからです。このようして開発された技術は、途上国の僻地など、医療設備の不足する地域でも応用できるに違いありません。

「夢の電話」を実現するNTTドコモ

NTTドコモ社は今年も、独自開発の技術を展示した唯一の通信キャリアでした。特に、今年展示された技術には、電話に対する夢や遊びを感じさせられ、「今」の時代感覚を感じました。

NTTドコモの触って感じる電話に人だかり。

例えば、触って感じる電話です。5センチ四方ほどのハンドセット画面にかわいいカメレオンの3Dビデオが映っています。そこに専用のペン先を近づけると、カメレオンがピュッと舌を伸ばして、ペン先に触るのです!それはかなり強い力で、本当にカメレオンの舌が自分の指先に当たった、と思いました。(写真)

種明かしは、ハンドセットに取り付けられたカメラ ――これでペンの位置を追う、ペン先の磁石、ハンドセット底部に取り付けられたコイルと、ペンの動きに対応し、コイルに素早く電流を流すスイッチを入れるソフトです。ペン先の磁石と、コイルに発生する磁界のいずれもがN極なので、反発し合うのです。

これは電話の進化を予測させる楽しい技術です。筆者が子供のころ、相手の顔の見えるテレビ電話は夢でした。それが実現した現在、次の夢は「テレビ電話に映るモノや相手に触れられる電話」となるでしょう。例えば、テレビ電話に映るご馳走を食べられるとか。このカメレオンシステムが発展すれば、少なくとも通話相手の差し出すものに触って感じられる電話ができるかもしれません。カメレオンのデモンストレーションに人だかりができていたのもうなづけます。

もう一つの、古典的な電話の夢は「 同時通訳電話 」でした。通話する二人の言葉が違っても、二人の間をつなぐネットワークが同時通訳してくれる電話です。ドコモ社は、クラウドとLTEを使ってそれを実現しました。リアルタイムの会話の速度に通信と複雑な情報処理(言語変換)のスピードがシンクロナイズすること、しかもそれを携帯電話で可能にしたのです。

筆者の住むヨーロッパには主なものだけでも20以上の言語があるうえ、EU(欧州連合)域内の人の移動の自由化が実現しているためもあり、各国間の人の交流は増大する一方です。また、歴史的にヨーロッパ外からの移住者の多い地域でもあります。そういう社会では、同時通訳電話のニーズは多いことでしょう。

また、この技術を応用すれば、身体障害者の通信へのアクセスを助けられるかも知れません。たとえば、携帯電話を使ったテレビ電話で、手話通訳はどうでしょう?

インフラを作る人の急務

通信市場が、「 動く(=モバイル)」、「何でも出来る(=高機能)」、という方向に発展すると同時に、ネットワークを流れるデータトラヒックの急増が予想されています。専門家によると、今のネットワークは光ファイバーを入れるなど大容量化してはいるものの、LTE が普及してもなお、まだ容量が不足と予測されています。しかも、LTEはネットワークインフラなので短期間の普及は望めません。今年は、その課題を解決するシステムの展示が多数見られました。バックホール回線、フェムトセル システムを提案する企業などです。

携帯電話が固定電話の通信量を凌駕する時代、有線ネットワークが携帯電話に繋がる無線ネットワークからあふれたトラヒックの受け皿となったところに、時代の変化を見る思いでした 。

最後になりましたが、MWC参加に際してご支援を頂いた、NTTドコモ社及びBHNテレコム協議会の皆様には心よりお礼を申しあげます。

本稿は通信興業新聞に連載されました。

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