市場を引っ張る「夢」の力 — MWC 2011 (2)

大企業による華やかなブースと並んで、数多くの小さなブースにも、モバイルを使ったアプリケーションにパッション(情熱)を持つ人々が大勢いました。そこからはゲームのような、遊びのためのアプリケーション開発とはまた違う方向の、モバイル通信の発展可能性を予感させられました。

例えば、グレート・コネクションズ社(Great Connections)。アサとマーティンが仲間と2009年に立ち上げた、アメリカ西海岸の会社です。「すべての人にICTの恩恵を」 が彼らのミッションです。Great Connections社は医療診断用超音波受発信装置とモバイル ハンドセットを使った、遠隔診断システムを開発しました。超音波超音波受発信装置は大型ラップトップぐらいの大きさで、持ち運びができます。

超音波センサーを当てて貰う筆者とアサさん

彼らの超音波遠隔診断システムの強みの一つは、インターネット、クラウドを利用する一方で、SMSもサポートすることです。ブロードバンドなど無い発展途上国や僻地で携帯電話をデータ通信端末として使う場合、SMSは必須です。現在世界の途上国では、農山村など公衆保健サービスの手薄な地域に、乳幼児の健康管理など、最低限の保健サービスを提供する多数のNGOが活動しています。このような超音波遠隔診断システムは、そういう場面でも役立つのではないかと思いました。現にこのシステムはエジプトでも使われているそうです。

ゼフィール(Zephyr)社 (アメリカ)の小さな展示スペースで、フィットネス用自転車を漕いで見せていたデビットの場合はユニークです。彼の本職は、ストックホルムのスポーツクラブの指導員。スポーツ、健康管理とICTにパッションを持つ彼が、スマートホンを使った運動する人のデータ管理システムを知って飛びついたのは、起こるべくして起きた偶然でした。そして研究熱心が高じて、ついに製造元のZephyr社から依頼され、MWC会場で自ら計測器を体に装着しデモンストレーションを行うにいたったのです。

運動する体のデータをスマホに出力するゼフィール社の展示に一役買うデビットさん。彼自身がスポーツトレーナー

ここではスマートホンは、データのアウトプット端末として使われ、心拍数、体温などのデータを色分けされた表とグラフで見事に表示しています。このような装置が無医村地区にあれば、医師や看護師は遠くからでも患者の健康状態をモニターすることが出来ると思いました。

多くの人のひらめきと才能を吸収する仕組みを作ってアプリケーション開発を推進する大企業、その外側で個人の熱意が生みだし、推進している数々のアプリケーション。この両者はビジネスモデルも市場規模も全く異なります。にもかかわらず、そこには大きな共通点がありました ――「自分はこれが好き!」「これが楽しい!」という心の力、パッション(情熱)です。その気持ちは、ブースを訪れた人にも自然と伝わります。ただ気の利いたシステムやソリューションを見せているだけのブースとは、熱気が違います

これからのディジタル社会を引っ張っていくのは、このような心に熱を持つ人たちでしょう。フェイスブックなど、ソシアルネットワーク(SNS)もまたそういう人々から生まれ、多くの人々を引き付けて育ちました。面白いから、楽しいから、自分のしたいことのためにスマートホンを使うのです。

そう考えるとき、モバイルの世の中になった今、個人のプライベートなモバイル通信利用形態がオフィス通信の利用形態を変えていることにも納得がいきます。MWC会場では、シスコなどの大手メーカーが、キャリアと組んでエンタープライズソリューションを展示していました。それをよく見ると、基本は、個人の使う携帯電話を企業内通信としても使うということにあるのです。かつてコンピュータの進化は、オフィスから始まって、個人に広まりました。今、モバイルはその逆の進化を遂げつつあります。

通信がモバイルになった現在、無数の個人の力が市場の成長を引っ張っています。その原動力には、「夢」があるのではないでしょうか。“こんなことが出来たらいいな”、というアイデア、それが夢です。それは手のひらに乗るビデオや、ゲームになって実現してもいいし、遠隔診断システムになって育っても良い。これからは、そういう人々の持つ夢が、SNSなどを介して繋がり、刺激しあいながら、モバイル システムを縦横無尽に使って、新しいものを創り上げていくようになるのと思います。

本稿は通信興業新聞に連載されました。

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