山の鉄道会社の国際化 (1)

日本語を話す車掌さんたち – グリンデルワルド地方

「私は日本人が好きです」

思いがけないところで聞く流暢な日本語に、私たちは皆、「えっ?」と思いました。

この夏、休暇で友人たち10人程でアルプスの山歩きを楽しんだときのこと。ヴィルダースヴィル駅で、シーニゲプラッテに上る赤い登山電車に乗ろうと、ホームを歩いていた時のことでした。

声のする方を見ると、青い制服を着た女性の車掌さんがいます。彼女は私たちのために車両の扉を開けに来たのでした。親切そうな笑顔。「私は日本人が好きです」と文字に書くとお客におもねっているようですが、実際にはそんな感じは微塵もありません。その車掌さんは、とても自然体でニコニコして仕事をしていました。

私たちは皆、その車掌さんに印象を良くし、その上、話に聞いていた、ホロ屋根の掛かった、窓のない、昔、動物園で見たお猿電車のような珍しい車両に乗りんで、上機嫌。そこに、検察に廻って来た彼女が「切符を見せてください」と再び上手な日本語で言ったので、皆でまた驚きました。挨拶だけではない、仕事の言葉も日本語で話すのです。

翌日から歩いたグリンデルワルド地方で、この地方を走るユングフラウ鉄道を何度か利用しましたが、上手な日本語を操る車掌さんたちに、更に二人も会いました。どの車掌さんたちも、皆自然体です。日本人乗客を特別扱いするとか、外国語を話すぞお、という気負いや緊張が感じられないのです。そういう気持ちは相手にも伝わり、乗客をリラックスさせます。

スイスには独仏伊ロマンシュ語の4つの国語があるうえ、スイスには国際的な観光都市、地域が幾つもあります。そのため鉄道会社も、車掌さんたちがいくつかの主要な言葉を仕事に使えるよう、トレーニングをします。

そうはいっても、ヨーロッパ系言語でない日本語も操るとは大したものだと思いました。グリンデルワルド地方は観光が重要な産業で、アジアからの旅行者が急増しています。そういう土地で、観光に関連する仕事に就く人々にとり、それが日本語であろうと何語であろうと、お客の言葉を身につけることは、生きていくために必須なのだろうと思いました。

また、そういう環境で暮らす人々には、他の言葉は覚えられるものだ、という意識が、自然と植え付けられているのかも知れません。国際化の土壌はできているのです。

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