MWC訪問記−1,技術の受益者は誰?

移動体通信産業の一大展示会

去る2月15-16日、バルセロナで開かれた、Mobile World Congress (MWC)を訪問しました。MWCは、移動体通信産業の世界規模の展示会として有名です。毎年1月に開かれるためもあり、その年の移動体通信産業全体の行方を窺うために、産業界では重要視されています。 都心近くのエスパーニャ広場に面した広大な展示会場に、華麗で大規模なブースを出すアジアのメーカーや、通信キャリア、また、的を絞った市場に向けて技術開発をする中堅のメーカーなど、移動体通信を支える技術、サービス、人、システムが一同に会する壮大な展示会でした。(写真 会場風景)

MWC 会場風景

携帯電話ではない、パームトップコンピューターだ

まず印象づけられたのは、携帯電話の機能は非常に多様化し、電話を越えて、パームトップコンピューティングに成長したことです。こういう高機能携帯電話機に、「スマートフォン」というネーミングがあるのもうなづけます。

スマートフォンには多くの使い方がありますから、展示のテーマも多様です。

例えば、健康管理やフィールドセールスなど、携帯端末をデータ通信に組み込んで使う多様なアプリケーションを展開するサムスン。この展示には、1980年代初め、コンピュータがオフィス用に普及し始めた頃、オフィスショウなどに行くと、各メーカーが、次々にアプリケーションを展示していた様子を彷彿とさせられました。携帯電話は、コンピュータの辿った道を歩いているのです。

携帯電話は、生活用具としての美と使いやすさを満たすデザインを追求する方向にも発展しています。そこに力を入れているのがソニーエリクソンやHTC。ハンドバッグやポケットに入れて持ち運びやすいよう小型化するハンドセット、そこにキーボードという、スマートフォンには欠かせず、しかも一定の大きさを必要とする機能を、使いやすさを損なわず、如何に組み込むか?これはチャレンジです。

他にも、60日間の耐久時間(電池)が売り物の携帯端末を出展したサムスン、携帯端末で映画館のような迫力あるサウンドを楽しめるシステムをデモするドルビー。また、マイクロソフト社は市場リリース間近のWindows Pohne 7をデモンストレーション。それに多くの人々が見入っていたのは、さすがは、機を見るに敏な人々の集まる展示会だと思いました。あらゆるITメーカーが、携帯市場の波に乗ろうと、しのぎを削っているかのようでした。

この技術はどこに行くのだろう?

どのブースでも素晴らしい技術が次々に展示されていましたが、一つ一つの技術は素晴らしいものの、それが誰の、どういうシチュエーションで役立つのでしょうか。目の前に展開する技術発展は、何を目的に、何処に行こうとしているのか?目的も受益者も、きっとある筈ですが、この展示会では、そこが見えないと思いました。それは、ある程度しかたないかもしれません。この展示会自体が移動体通信の専門家による専門家のための展示会ですから、技術の受益者は参加していないのです。そこが、 昨年(2009年)ジュネーブで開催されたITUテレコムワールドとの大きな違いだと思いました。ITUの展示会には、通信キャリアやメーカーの他、多数のNGOも参加し、ICTを発展途上国や身体しょうがい者に役立てるプロジェクトなどを展示していました。

技術の受益者が誰か、端的にわかる情況の一つが、通信インフラの不十分な発展途上国です。発展途上国や、通信インフラのない地域、状況で使える技術や機器に注目して見て行くと,電力や、メンテナンスの人材のいない地域に向けた製品がいくつかありました。

(この記事は平成22年4月19日発行の通信興業新聞に記載されました。)

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