社会起業家の潮流はテレコムにも – ITUテレコムワールド2009

 

昨年(2009年)十月、ジュネーブで ITUテレコムワールド2009が開催された。そこで出会った人々は、先端技術の展示と同じぐらい、印象深かった。

ビクター、自由化をタンザニアに根付かせたい

ビクターは、タンザニアの電気通信規制庁で、国内通信部次長という肩書きを持つ、クルクル動く丸い目が、人なつこい印象を与える人である。私の質問に応えて、タンザニアの自由化された通信市場、急成長するモバイルバンキングサービス等について説明してくれた。そのどれもが大変興味深かったが、特に印象に残ったのは、最後に彼が言った、「いやあ、(自由化も)ここまで来るのは大変だったよ」という言葉である。

ビクターは、当時国有だった電話会社に入社、会社から派遣されて、イギリスに留学、財政学を勉強。その後、一旦タンザニアに戻った後、今度はインドの電気通信規制庁に派遣され、そこで、電話会社の財政を、一ヶ月間、実地に研修した。

彼がイギリスに留学した頃、通信市場自由化は、イギリスでは当然のことだった。ところが、タンザニアに戻ると、電話会社の同僚たちは、「自由化?何を言ってるんだ」という空気、自分は誰にも理解されなかたっという。私も、当時のアフリカ諸国の電気通信政策が、堅固な独占一点張りだったことを知っているので、彼の気持ちは良くわかった。

タンザニアの通信市場は2005年に自由化されたそうだが、タンザニアの場合、法律上の通信自由化と同じ時期に、携帯電話が急速に普及、固定電話に取って代わったことが、政策担当者にも、電話会社にとっても、自由化を受け入れ易くしたのではないかと思う。試しに「固定電話の頃にあなたの職場で仕事をしていた人たちと、今の同僚とは違う人々じゃないの?」と聞いてみると、その通りだという。通信政策担当者も、携帯電話という新しい市場と取り組む、新しい人々に取って代わったのだ。

ビクターは、昔が嘘のようだという。それも、さほど遠い昔ではない。今では、南部アフリカ諸国の電気通信規制担当者同士が、問題点を話し合い、経験を交換する場ができた。彼はそこに出席し、今も研鑽を続けている。

トビアス、自分を信じてリスクをとった

タンザニアのモバイルバンキングサービスについて知りたいなら、この人、と紹介されたのが、トビアス。長身、ダイナミックな若いベンチャー企業経営者。話しをしていても、反応が早くて具体的。

彼がビジネスパートナーと共同経営する会社、E-フルシ アフリカは、タンザニアで最初に、携帯電話用バンキングサービスシステム、モビパワ(MobiPawa)、を作った会社である。今、アフリカで急成長する、モバイルバンキングサービス。銀行口座を持たない、持てない人々が人口の70%を占める社会で、安価で加速度的に増加する携帯電話を使った、少額のバンキングサービスがそういう人々のニーズを捉えた。

とはいえ、5年前にトビアスと仲間たちがモバイルバンキングシステムの開発を始めた時、誰も今のような成長を予測していなかった。資金を貸してくれる人もなかった。それでも彼らは、このサービスは成長すると信じ、自己資金で開発を開始、何度もテストし、利用者の意見を聞いて改良を加え、1年半かかって完成させた。「楽観的でいることさ」とトビアス。「利用者の声を聞くことは、開発に必須」とも。次のチャレンジは、音声応答を使った保健サービスだと言う。

アンヌ、社会事業をビジネスに

アンヌは(写真右側)、ペシネットというNGOを主宰する、 小柄でにこやかな女性で

Pesinet Stand, ITU Telecom 2009

ある。ペシネットの仕事は、ゼロ歳から5歳までの乳幼児を対象に、予防医療サービスをマリの農村に提供すること。この年齢の子供に予防措置をとることにより 子供の死亡率は大幅に減らすことができる。その結果、家庭と政府にかかる医療費負担も減らすことができる。

彼女と話してみて、驚いたことが二つある。

その一は、ペシネットの事業が、収益を上げ、サービス従事者の給料を払うと共に、それを事業の拡充、拡大に使う仕組みを持っていること。つまり、ペシネットはビジネスモデルを持った社会事業である。

ペシネットは、いわば、地域限定の会員制医療保険会社として機能する。ペシネット利用者は、毎月1ユーロの利用料金を払う。ペシネットのサービスを利用する家庭には、訪問員が毎週訪れて、子供の体重、その他の健康状態を記録、その場から、携帯電話記録を使ってデータを地域医療センターに送る。医療センターには医師がいて、子供一人一人の健康データをモニターする。病気の兆候が見られると、すぐに訪問員に連絡、訪問員はそれを家庭に伝え、それを知った両親は、子供を医者の診察に連れてくるのである。その医療費は会員の払った月額利用料で賄う。

更に驚いたことに、ペシネットを立ち上げ、マリの農村でちゃんと機能するようになるまでに至る2年間、アンヌは、別のNGOでフルタイムで働いて生活費を得ていたという。NGOであれ、一つの事業体を立ち上げるのは、たとえ給料を払われなくても、それ自体がフルタイムの仕事である。関連する政府機関、各種団体との折衝、ファンドの申請等、無数にある仕事のどれもおろそかに出来ないし、時間がかかる。それを、フルタイムの仕事の傍ら続けてきた!「あの時は、夜も週末もなかったわ。ずっとペシネット立ち上げの仕事をしていた。」と、アンヌはにこやかに語る。

私が、社会企業(Social Entrepreneurship)、社会起業家 (Social Entrepreneur)という言葉を初めて聞いたのは、今年初めだった。トビアスやアンヌのような人々に出会い、その意味が、今、分かってきたように思う。チャリティーでなく、それがビジネス、収益を上げながら、社会に役立つことを事業として運営する。そして、そういう人々が活動できる環境を支えるのが、ビクターのような人々なのだ。自分の信じることを事業に、その事業をビジネスに。それは、義務でなく、自己実現としてのビジネス。通信はそういう生き方を選ぶ人々の役に立っている。

この原稿は、BHNテレコム支援協議会の機関誌、「クロスロード」第37号に寄稿したものです。

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投稿者: Yoshiko KURISAKI (栗崎由子)

I am Yoshiko Kurisaki, Japanese, executive consultant specializing in cross-cultural management between Europe and Japan. Being based in Geneva, I travel between Europe and Japan. Culture may be a stop factor in business. That said, if you go beyond that, culture is a vaIuable source of inspirations and innovation. I help European businesses to turn cultural barriers to innovation.   栗崎由子(くりさき よしこ)、ダイバーシティ マネジメント コンサルタント。二十余年間欧州の国際ビジネスのまっただ中で仕事をしてきました。その経験を生かし、日欧企業むけにビジネスにひそむ異文化間コミュニケーションギャップを解消し、国籍、文化、性別など人々の違いを資源に変えることのできるマインドセットを育てるための研修やコンサルティングを行なっています。文化の違いは”面倒なこと”ではなく新しい価値を生み出す源泉です。日本人の良さを国際ビジネスに生かしながら、違いを資源に変えて価値を創造しましょう。ジュネーブ在住で、日本とスイスを往復しています。

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